YOOT.COM

斎藤由多加のブログだよ

コンピューター占いが当たる理由

060530掲載

1986年の春のことだったと思う。
土曜日の銀座四丁目を同僚の女の子と歩いていた僕は、路上に屋台を出しているコンピューター占いをやった。
「どうせ、ちぐはぐな文章が出てくるんだろう」

正直、このまゆつば物の屋台占いをバカにしていたのだが、女の子と一緒だからアトラクションのつもりでトライしたのである。
だが、手相のスキャン画像の横の余白に打ち出された文章を見て、すこしびっくりした。コンピューターが生成した文章がきちんと意味をなしていて、しかもその内容がおどろくほどあたっているのだ。

「あなたは一見大胆に見えますが、実に繊細なところがあり、周囲からの見られ方にギャップを感じるタイプです。日々の仕事などでは・・」
そんなようなことが書かれていたと記憶している。

いまは信じられないだろうけど、この時代、コンピューターという言葉はそれだけで宣伝文句になる存在だった。
「コンピューターによる恋人探し」
「コンピューターによる適性診断」
コンピューターという文字が書かれているだけで、すごく高価な機械がとてつもなくすごいことをやってのけているんだぞ、という響きが一般人に対してあったのだ。間違えなく社会はコンピューターを上に見ていた。人間ではできないことをするのが当時のコンピューターだった。

「なんで当たるんだろう!?」
「どうやって生命線とか結婚線とかを読み取っているんだろう!?」
当時大型スーパーコンピューターなるものを商品にしていた部署の僕と女の子は、この占い師が広げている屋台のあちこちに、センターマシンとつながっている電話線がないか、と詮索したのである。なぜならば、パターン認識という技術は当時の仕事で扱う大型コンピューターが扱う分野だったから・・。

すると、その屋台の上の機械にOASYSという文字がちらりと見えた。
OASYSって書いてあるよ・・。OASYSって汎用計算機の端末になるんだっけ!?」
「あれ?それって富士通ワープロの名前じゃなかったっけ?」

そんな会話を交わしているうちに、僕らは気づいたのである。
このコンピューターは何もしていないから当たるのだということを・・。

手形をコピーした用紙をプリンターにまきつけながら、占い師は相手の風貌をチラチラと覗き見し、あらかじめ文章が登録された番号のボタンを押す。すると余白に文章が印字されてくるしくみだ。

そう、占っているのはコンピューターなんかじゃなくて百戦錬磨の経験を持つ的屋のおやじの経験と勘だから当たるのである。そのおやじにとってぼくは、「一見大胆」だが、どうということのない兄ちゃんに見えたに違いない。

あれから20年。この写真は2-3年前に都内で撮ったものだけど、マシン構成は何も変わっていない。
このおじさんが相手の顔をみながら、「ははぁ、こいつはこういう奴に違いないぞ、だったら8番だ」
とか考えながら、OASYSのファンクションキーを押しているにちがいない。

「コンピューターなんて所詮たいしたことはできないのだから、だったら最初からあてにするな・・・」
まるでIT業界全体をバカにしたようなこの思想(といっていいものかどうか)はシーマンをはじめ作品の中のトリックめいた仕掛けでも応用させてもらっている。

そういえば、マックを発売する以前、創業間もないアップルのアニュアルレポートの表紙には次のようなシャレた言葉がいかした字体でかかれていたっけ・・・。

Human Brain is still the most extraordinay computer..(人間の頭脳は依然として、最もすぐれたコンピューターでありつづけている)

そしてこの的屋の占いサービスも、依然として日本のあちこちで客を集めている・・・。

やっぱり人間は偉大なんだな。