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斎藤由多加のブログだよ

マッチ売りのローザ(マッチ売りの少女2 のその2)

目抜き通りから一本入ったところに位置するクラブローザという店は、いかにも高級クラブといった雰囲気を持っていた。客として出入りしている者とは会ったことがないが、ここらでは最高グレードの店であることは、少女でも知っていた。

店内には、キャバクラのようにユーロ系のBGMが無意味に流れているわけでなく、またマイクをもった店長の掛け声でギャバ嬢が不慣れな踊りを披露するという下品なイベントもない様子だった。

店内におかれているのは、カウンターと一体化したビアノが一台。おそらくはそこに初老のピアニストなどが毎日決まった時間に、ビートルズの懐メロから始まってビリージョエルの「素顔のままで」などの演奏を繰り広げるであろうことは、むろん少女には想像もつかない。

うすぐらい開店前の店の一角で、少女の面接は時間どおりにはじまった。
開店前の客のいないクラブほど不気味でさびしい場所はない。

面接を担当する店長とおぼしき男は、すでに初老の紳士から聞いているらしく、少女のことをやさしい口調で迎え入れ、対面するソファに座った。

「で水商売は初めて?」
「はい、まったく経験がありません・・・」
「興味はあめの?」
「ないわけじゃ・・・ないけど・・・」
「・・・ちょっとこわいよね」
「ええ・・・」

初対面の店長の言葉遣いに、なんとか少女の緊張をほぐそうとする配慮を感じた・・といいたいところであるが、少女はむしろ自分という存在を認めてくれるこの店長の視線に、これまで感じたことのない懐かしさを感じた。

「君はまだ未成年だから、まずはエスコートからお願いしようと思うんだが、どうかな?」
スコートという言葉に、少女は少々当惑した。欧米でエスコートというのは特別な意味があることをどこかで読んだことがある。

「はは、そうかそうか・・。ええと、エスコートというのはね、いらしたお客さんを迎え入れる係りのことです。日本ではホステスと区別してそうよばれています。荷物を預かったり、あと席へとご案内する役目。」
「あ、だったらできそうです・・。でも・・・」
「でも、なんですか?」
「その仕事とマッチをするのが得意なこととは関係があるんでしょうか?」
「ああ、たしかにそれは関係はないね。ま、君はかわいいから、ときどきお客さんが席に呼んでくださることだろう。そのときくらいかな・・・」
「はぁ・・・」

少女は、高級クラブという店がどのようなしくみで運営されているのか、しるよしもない。
だがかといって、たんかをきって飛び出してきた手前、ここの店で雇ってもらわないともう行くあてもない。

(ええい、一度死にかけた身だ)
決心するときの潔さはおばあちゃんゆずりだ。
少女はしばらく考えて、顔をあげた。
「わたし、やってみます。やらせてください」
その決断の早さにびっくりして店長がぽかんとあけた口には、火のついてない煙草が乾いた唾液でひっついたままぶら下がっていた。

少女は売れ残ったマッチを懐から取り出すと、すかさず擦ってそこに火をつけた・・・。
これが少女がこのクラブローザで擦った記念すべき最初のマッチとなったのである。