YOOT.COM

斎藤由多加のブログだよ

翻訳文化

「ヤツは包茎だったか?」
キアヌ・リーブス演じる弁護士は、「一緒に夜をともにした」と容疑者のアリバイを偽証する女性に叫んだ。

日本語タイトル「ディアブロス」の1シーンである。

この映画をはじめて見たのは98-99年(たぶん)。済んでたバークレー近くのEmmerlyVilledageのシネコンだった。

たしかオリジナルは"Was he Circumcised?"(ヤツは割礼されていたのか?)みたいなセリフだったから日本で見たとき、すこし印象が違った。

***************

今日の歓迎会の飲み会で、映画字幕はどこまで正しく伝えているかという話題でこの話をした。 
そしたら、「そのふたつはずいぶんと印象がちがうな」という話になり、やがて、「包茎っていったって真性か仮性かでちがう」という笑い話になった。

割礼と包茎とでは、印象はずいぶん違うが、じゃ、「どう一言でニュアンスを言い当てるか?」、となると、難しい問題だ。割礼という2文字を見て、とっさに、該当する男性のペニスの状態を想像できる人は日本人は限られている。つまり、字幕が持つ「一瞬」という時間内に、同ニュアンスを喚起させる言葉が、ない。割礼という儀式は日本では認知されていないのだから。その意味で、この翻訳は、とても意味が深い。

***************************

日本には、翻訳の文化がある。たしかスヌーピーマザーグースの翻訳は詩人の谷川俊太郎氏がされていたと記憶している。日本が英語文化に対して持っているノウハウはすばらしいと思う。日本がかつてそこに費やしてきた情熱とエネルギーは、たとえばアメリカが日本文化に対しておこなっているそれの数十倍にちがいない。

黒澤映画の英語字幕をみると、まんま直訳すぎて、「それじゃニュアンスがでていないよ!!」と感じることがある。いや、最近の「ラストサムライ」の日本語セリフの英語スーパーもそうだった。そういう違和感を感じさせない日本人翻訳家たちのハリウッド映画の普及への寄与は計り知れない。

しかし、日本は日本文化の輸出にも、もっと情熱をもっていい時期ではないか?と思う。ピンクレディーからサザンまで、日本のミュージシャンが英語の歌で勝負してきたが、一位をとったのは坂本九の「スキヤキ」だけだ。

僕たち日本が、もっと理解されるためには、文化輸出がとても重要かつ有効だと信じている。そのためにすべきこと、それはハリウッド俳優を起用して英語の台本で世界市場映画製作することではない。日本映画をもっと世界で面白く見てもらうための文化土壌を普及させることではないか、と思うのである。時間がかかることだが、とても重要なことだ。そしてそれは政府レベルでおこなうべきことだ。「輸出促進」という名の下で。