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斎藤由多加のブログだよ

背景知識

最近、キリスト教世界にもとづくファンタジーがヒットしています。

そういう影響もあってか、キリスト教世界を背景にしたような和製のファンタジーもの、というのもアニメ、ゲームをとわず制作が絶えないですね。

僕は、どうしてそういう世界ものを作らないかといいますと、自分が知らないから、なんですね。欧米では水や空気のようになっている基本的な知識というものを、僕たちはまったく知らない。そんな文化圏の人間が、見よう見まねで世界観をつくったところで、「ちゃんちゃら可笑しいぜ」となっちゃうから。

僕の家に聖書世界に関する本が何冊あるか数えたことがないけど、普通の人よりははるかに多いと思う。それでも、どれだけ読んでも、やはりわからないです。子供の頃から生活に溶け込んできたものは、そうでない者が本で知識として学んでも、及ばないものだ。

たとえばね、聖書に出てくる聖人の名ってのは、英語圏の人にとってみれば、どこにでもいる名前なんですよね。
だからヨハネとパウロを、英語ではジョンとポールって普通に呼ぶですよ。というよりもそう呼ぶ以外に呼び方が、ない。日本語の外来語にあたる言葉じゃないから。
だからビートルズはとてもありがたい人たちのバンドだったんですね。

そうやって聖人の名前を列挙してみたら
ヤコブはジェームス、ペテロはピーター、トマスはトーマス、マタイはマシュー、アンデレはアンドリュー、ピリポはフィリップ、ミハエルはマイケル・・なんだ、知ってるミュージシャン、みんな聖人の名前なんじゃん、ってことになる。

似た話でこんな話がある。
かつて大ファンだった、KISSというバンドのジーン・シモンズ氏とニューヨークで食事をしたことがある。そしたら突然、
「おれ、ユダヤ人だからさ、アメリカで成功するために努力してきたんだよね。」とごく普通にいわれたのを鮮明に記憶している。どうリアクションすべきかに困った。

世界の経済はユダヤ系富豪に占められている、などとメディアによく書かれているが、じゃそのユダヤ系の人というのがどういう人でどう区別つくのか、となると、僕らはぜんぜんわからない。

アメリカの知人にそのことを聞いたら、「だいたいは苗字でわかるじゃん」といわれた。
「苗字?ぜんぜん、わからないよ!?」
「たとえば、XXXXバーグ、ってのはだいたいそうだよ。たがらスピルバーグって名はユダヤ系の苗字さ。なんというか、常識だよ」
というので、「へぇー、知らなかった。シンドラーのリスト制作で公表したのかと思ってた」
といったら、「変わってるねえ。」と逆感心されてしまった。

わからないよ、そんなの僕らに。英語の授業で教わるでもなし。

                 ☆       ☆

昨日はオールナイトで「うどん」と「ゲド戦記」を二本続けてみた。
「うどん」はユースケ・サンタマリア演じるコースケがニューヨークのスタンダップコメディに挫折するシーンから始まる。「言葉の壁」ってやつである。でもさ、僕ら日本人が海外で困るのは、実は言葉なんかじゃない、こういう背景なんだと思う。ここに気づかないと、NOVAが儲かるだけで何も変わらないと思うなぁ。

ゲド戦記」は、美しい作品だったけどすこしわかりにくかったかなぁ。よし原作を読んでみよう。わかりにくさの原因が演出のせいなのか、あるいはもしかしたらこういう「背景」のせいなのか、とても興味があるので。

日本は、いろいろな国の言葉がそのまま入ってくるからさ、その背景にある関連付けの意味もわからないまま、だ。英語では文法は教えるけどその背景知識は教えてくれない。

たとえばボブやロブがロバートの愛称だったり、ビルやウィルの正式名称がウィリアムだったり、リズやベスがエリザベスを指す、といった常識的な略称を知らないと、親近感を現すための映画の呼称セリフが、まるで別人を指しているものと勘違いしてしまう。サスペンスものを見てて必要以上にややこしいのはそのためだ。

映画「セブン」でブラッドピット演じる掲示は、七つの大罪を調査するために、インテリのノンキャリア刑事であるモルガン・フリーマンに、「失楽園」や「(ダンテの)神曲」「カンタベリー物語」などを読むように勧められるシーンがある。
しかし、ブラピ演じる若手刑事以上に僕らはわかっていないのである、何故にこれらの本が犯人と関連付けられるのか、という常識的な背景知識がないからね。

何でこんなことを考えていたのかというと、実は、かつてシーマン英語版ってのがあって、米国でも話題になったのだけど、じつは作るのが大変だった。ローカライズというよりも作り直しだった。日本語の背景知識をもっていない国には、訳しても意味を成さないのである。たとえば
「おまえ、血液型Bなんだ、どおりで、わがままだとおもった」
なんてセリフは、血液型占いがない国では、まったく意味不明だ。
ましてや、ホステスを職業にしている人への
「同伴はとれているのか? 指名はどうだ?」
なんて失笑を誘うセリフをそのまま訳したところで、ジョークにすらならない。彼らにはその意味がさっぱり意味不明なのである、たとえ正確に訳したところでね。

ローカライズというのは、難しい。
日本からヒットを飛ばすというのはとても難しい構造がここにある。

そういえば、「ルパン三世」ってさ、怪盗アルセーヌ・ルパンの孫ってことになっているけど、そもそも三世ってのはファーストネームにつくものだよ、エドワード三世、みたいに。
由緒正しい貴族は父親とおなじ名を名乗るという風習があるからね。

日本人を夢中にさせた傑作アニメも、母国の人がみたら「なんだ、それ!?」って思われてんだろうね。