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斎藤由多加のブログだよ

第11回 退職の方法

独立するにあたり、まず最初にあるハードルは、ほかでもない、いまの会社からの「退職」である。
「退職」には、「退」というネガティブな字がはいっているから、ともすると必要悪のように思いがちだけど、実はすでに「独立」という建設的な行為の重要な一部である、という話をしようと思う。

これまで中小企業をやってきて、社長という立場からこの「退職」をどう見てきたかというと、長年つきあってきた社員の人柄を一番思い知る瞬間といいかえられる。いってみれば退職時に、退職者への印象と、その人物との今後の関係のほぼすべてが決まるといえる。つまり、独立する者にとっても見送る側にとっても、退職のしかたというのはとても大切な、ある意味、儀式的瞬間である。

よく、腹いせに辞表をたたきつけてやる、とか、慰留する、しない、といった光景があるけど、それは退職ではなく、退職より前の話である。退職というのは、すべての意思が決まり、あとはその日にいたるまでの数週間、人によっては数ヶ月、をさしている。

経験的に見てて、退職は、ふたつに分けられる。
ひとつは、誠意をもって残務を整理して辞めてゆく人。もうひとつは、まるで逃げるようにすべてを放り出してやめてゆく人。

これからも仕事で付き合っていこう、と思うのは、いうまでもなく前者である。後者のパターンはほぼ例外なく絶縁関係となる。仮に忘れたころに転職先の会社から「こんな案件があるのですが、やりませんか」などといった連絡が来たとしても、「迷惑をかけるだけかけておいて、いまさらなに都合のいいことを言ってんだ」と誰からも相手にされないものだ。

だから、独立するときにまず心がけなければならないのは、よいやめ方をするということである、と思う。

有給消化、という言葉がある。
辞表を出した翌日から休みに入り、退職日に唐突に挨拶と荷物引き上げをかねて顔を出す、というケースがこれにあたる。取引先でも時々見かける。職種にもよるけれど、引継ぎや後始末をしっかりとしないと、周囲のものからは、つくりあげてきた仕事の秩序を破壊するような行為にとられる可能性がある。

直接利害関係のない社外取引先の立場からどう見えるか、という話をすると、やはり社内と同様、それなりに無責任に映るものだ。とくに退職する、というのは噂になりやすいから、いろいろな人の無責任な印象がそこに付加される。印象というのはあとがこわいものだ。

そうなると本人は後でかならず損する。そもそも独立するときは、ひとりでも味方が多いほうがいい。だから「せっかくの有給はとっておかないと損だ」という考え方は、独立時に当てはめるべきではないと経験的には思う。有給というのは、在職中にとるから有給なんだから。

ということで、独立を考えている皆さん、有給消化なんて行為はやめてサービス退職を心がけましょう。いいじゃん、最後は営業プロモーション出勤だと思えば。きっちりと最後まで勤め上げることほど自分の誠意を周囲にアピールする機会はほかにないんだから。

業界というのは狭いもので、一度仕事をした人は、どこかでかならず、また出会う。仕事先で出会わなくてもパーティー会場とか飲み屋で偶然出会う。そのとき、声をかけやすいか、それとも気まずいか、が大きなチャンスの分岐になったりする。その分かれ道というのは、退職時のほんのちょっとした印象で決まったりする。

だから、退職時というのは、「逃げるようにやめた」といわれないようにしたほうがいい。「かっこいいやめ方」を目指したほうがいい。

かくいう僕も大企業から独立したことがある。かっこよくはなかったけど、最後は消化有給なんて一切とらずひたすら自分の仕事の後始末をしたのである。もちろん、独立したらいやというほどヒマがある、という安心感もあったからなのだげど、とにかく「せめて辞めるときだけは」と決めていた。

そしたら、数年後に、「フェロー」というとても名誉な肩書きをその会社からもらうことになった。そのおかげで、今でもその会社の人たちは快く迎え入れてくれる。そんなことってあるんだな、といまにして思う。自分のときは、偶然そういうやめ方になったからよかったけど、これから独立する人には、確実に、必然的に、よい関係になってほしいから、こうして言葉にしておこうと思った次第である。