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斎藤由多加のブログだよ

内圧と内燃機関のビジネスモデル

内圧の話の続きである。

内圧が高まるというのは、危険な状態が続くことを意味するわけで、内部のスタッフのコンディションが良好な状態ではなくなる。体力的にも精神的にも消耗し、平たく言えば、「毎日続けることができない」ような状態になるわけである。

ちょうど、風船自動車であれば、ピストンで空気を「ぐー」と押し入れているような状態。風船が膨らみピストンに入る力も強く限界に近くなってくる。タイミングを見計らってそしてリリースすると空気の力で自動車は走り出す。
早く走ればヒットだし、長く走ればロングセラー、途中で風船が破裂したらプロジェクト失敗。僕たちがやっているゲーム制作というのは、この風船自動車のような仕事だ。

作品づくりというのは毎回毎回内容が刷新されていなければならないものだから、この風船自動車に、あたらしい風船をつけて、そのたびに空気を入れて走らせているようなものだ。走ったらしばらく休みをとって、また気持ちも新たにあたらしい自動車の設計に取り掛かる。

映画がそうであるように、一本一本がチャレンジであり、かつギャンブル的である。世俗的にいう「水商売」に近く、安定はない。

だからゲーム製作会社が株式公開することは基本的にはない話だ。ゲーム出版会社であれば、話は大きくちがうが。

製作と出版の違いはなにか、という話になる。
製作は映画スタジオ、出版は配給会社である。
この違いを十年以上ずっと考えてきた。

ピストンで走る風船自動車は、単発で一瞬走るだけで継続はしない。
そこで、もっと長く走れるようにと、ピストンの直線運動を回転構造に当てはめたのが人類の大発明「内燃機関」である。内燃機関は、弁と燃料を利用して、ピストンが何回でも自動的に押される構造をつくったものだ。いわば直線運動から回転運動へ以降したのである。

直線運動というのは、イベント労働のようなものだ。ゲームの製作スタジオ会社が毎回アイデアを考えては、リスクの高い仕事にチャレンジするのがこれにあたる。
一方、回転運動というのはルーチンである。いくつもの製作スタジオがつくる作品の中からその年々にめぼしいものを数点ピックアップして配給する、いわばインフラビジネスである。きめられた印税を製作者に払いさえすれば、めがねになかった作品をタイミングよく流すだけ。これを毎年繰り返すわけである。ネットの音楽配信の会社もこれである。チャネルが広がればよい作品もあつまってくるので好循環に乗ることができる。ミュージシャンのようにスランプもなければ、挫折もない。なんといっても担当者に稀有な才能を集める必要がない。この循環が繰り返せば、一定サイクルでちゃりんちゃりんとお金がはいってくるわけだ。

こういう仕事は、僕のように40代の経営者にとっては身を削らなくてもよい分羨ましくもあり、クリエーターとして退屈な仕事でもある。クリエーターとって興味の対象となる仕事ではない。

黒澤明が設立した黒澤プロは、黒澤明氏自身が撮る作品以外は手がけなかった。中心となる人物が働かないと儲からないし、メインピストンがとまったら車も止まる、というしくみである。公開などできわけがない。公開するより生命保険の掛け金の方が似合っている構造だ。主活動が「個人の創作活動」なのだから。

ところが配給会社はそうではない。多少リーダーの力量が影響するものの、社長が交替したからといって潰れるわけではない。システムとともに会社は存続するのであって、これこそが「事業」というものである。

だから、もし楽をしたいのであれば、ピストンを「回転」に置き換えなければならないわけである。ピストンを押し込むのは人一倍強い力と忍耐力がいるけど、回っている回転を止めないようにするのであれば特定の才能をもったスタッフでなくてもできる。幅広い分業体制にもってゆきやすい。

ゲーム会社を創業した経営者が陥りやすいのが、このふたつの混在である。公開しようとしたがあまり、衰えていったゲーム会社は少なくない。
一方で、公開しているゲーム会社の社長にクリエーター出身者がいないのが、いや計画にいうとゲームにこだわる人がいないのが、この分業体制にもってゆくための秘訣である。

僕の会社は、究極の単気筒エンジンだ。誰からからもそう指摘される、悪い意味でね。だから公開なんて考えたことものなかった。だからいまだに潰れずにいる。

だが、事業にはならない。単気筒であるうちはね。
大玉といまつくっているシーマン2はかなりの開発期間がかぶっているが、外部会社と内部を使って僕が無理してしてふたまた掛けただけのことであって、僕自身の体力と集中力からすればもうこれが限界でこれ以上伸びようがない。

世界のルーカスフィルム、は株式公開していないし公開する予定もないだろう。
もしルーカスフィルムが株式公開したら、一瞬それなりの高値がつくかもしれないが、代表のジョージルーカスがIR活動している時点でスターウォーズの製作は断続状態になるに違いない。数年に一本のタイトルしかできないのだから右肩上がりの業績も望めない。株式公開していたら、それが原因でいまごろつぶれているにちがいないのである。公開する必要がない、いや、してはならない会社の代表例である。

つづく