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斎藤由多加のブログだよ

火事とゴジラとたんすとリアカー

ゴジラが出現すると日本人はなぜみなリアカーにタンスを乗せて非難するんだ?」
モスクワのカフェでウィルがいきなりそう質問してきた。

古い東宝の怪獣映画では、怪獣が出現するともんぺ姿の日本人がリアカーにタンスや家財道具一式をのせて非難する光景が出てくる。それを指しての質問である。

▲写真は朝の築地/ごく最近のもので、これはリアカーと呼ぶのではないかもね。

「それがいちばんてっとり早いからじゃないか?」
そう答える僕。

「たしかに、僕らもそうしたかったんだけど、本当はそんな時間ぜんぜんないぜ」
ウィルの一家は、オークランド一帯(サンフランシスコの近隣)の記録的な大火事に巻き込まれたことがある。この言葉はその時の体験のことだ。広大な丘に広がる住宅街がすべて焼けた。

山火事というのは、あまりに一瞬のできごとだそうで、なすすべもなく、ただ火に囲まれた山道を逃げるので精一杯だったそうだ。その高温に、家はおろか耐火金庫も車もすべて融け、焼跡からは融けた金属の抽象的オブジェの塊が出てきたという。もともとはHONDA車だったそのオブジェは今でもウィルの自宅の壁に架かっている。

「その焼け跡の中で唯一燃えずに原型を残していたものは何だと思う?」
「わかんない。」
「日本で買った金属製のゴジラの人形だ」
「へぇー」

その後に発表されたごく初期のシムシティー(Mac版モノクロ)では、この体験から、火事と、それから公害がすすむとゴジラらしき怪獣が出てくる。
画素の荒い2Dの、しかも上から見下ろすシムシティに、「ゴジラ」と明記した文字はなかったが、東宝にクレームをいれられ、「争う体力がまだなかったから」との理由でMAXISはいさぎよくお金をはらったそうだ。

どちらかというと、Call "ウルトラ警備隊"? というメッセージが同時に出てくるほうが日本人にとってはまずいようにおもえたのだけれど・・・。(「ウルトラ警備隊を呼びますか」と、呼べもしないのにゲームが尋ねてくるのは一種のジョークだけど、そもそもこの日本文字が英語版に突然表示されることそのものが、アメリカ人はよめるはずがない点で彼のジョークである。)

「僕らもタンスごと持って逃げたかったんだよなぁ」

ウィルと奥さんのジョエルは当時を振り返って感慨深げに言う。日本製のタンスを大切にしていたそうだ。

そんなこんなでウィルの頭の中では、奇跡的に焼け残ったゴジラ人形とこの火事と、そして映画で見た日本人たちが引くリアカーとその上に載ったタンスが、すべてセットで記憶されている。