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斎藤由多加のブログだよ

ものづくりの「内圧」

気持ちのいい日曜の朝。
ジョギングをした。
そのまま帰ればいいのに、帰りに食事をしたら、そのあと急激にトイレに行きたくなった。腹痛による約6分の悶絶状態を乗り越え、爆発寸前で自宅のトイレに駆け込みぎりぎりセーフ。

苦痛とともに走りながら悟った。
「この"内圧上昇"こそがすべてのクリエイティブの原動力だ」と。(爆)

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まったくものを作れない、という人がたまにいる。意図的ではない。だがその徹底ぶりは見事なほどである。そういう人と一緒にひとつの仕事をすることになった。まったく異なるi系業界の人なのだけどね。

彼は彼なりにものづくりへの覚悟はしている。明晰だしそしてまた話もおもしろい。だけど、いざ具現化という段階になると、ぱったりと止まる。そこからはどういうわけかからっきし次にうつれない。紙ぺら一枚の成果すらあがらないのである。

だから、この人とのコラボレーションはすべて「口頭」でとなった。そうなると双方記憶だけが頼りとなる。概念論から発展させていざ形に、となった途端、仕事のやりとりか突然とまるのである。手を動かしてラフをつくっても、直しを依頼しても、それを送信した時点で返事がとまってしまう。返しがないからこちらも疲弊する。どうやら、具体的になると彼は返事を返せなくなってしまうらしい。理由はわからない。忙しい、という類の事情のせいではない。

実は彼は無能ではない。逆に彼は、現状を切り回して維持するのは、とても得意な人である。毎日同じ職務を繰り返す。回転運動のように、振り子のように、ひたすら同じことを一生懸命にやる。コツも心得ている。すでに稼動しているサービスを運営するだけでいい、という上司やクライアントからみると、実に使いやすく優秀な人材にうつると思う。

きっとそんな彼は彼なりに考えたのだろう。「このままじゃつまらない。自分でも商品をつくりたい」と・・・。そして僕という奇想天外系アイデアマンと出会い、ごく自然にプロジェクトははじまった。

こういうタイプの人というのは、どの業界にも絶対にいる。
ぜったいに筆をとらない人。食事を会議とする人。そして携帯電話とことばだけで仕事をする人。0を1にはできないけれど、1をすこしづつ増やしていける、という自信がある人。

事業というのは、しっかりとした商品基盤があれば、たいがいがこのスタイルで成り立つようだ。薄利多売だ、といいながら、ひとつのノウハウを繰り返すことで利益を生み出すことができる。ある意味、うらやましく思う。

例を挙げると、ある商品を売る仕事。
画期的とまではいわなくても、商品はそこそこしっかりとしているからがんばれば売れる。部下の営業マンにああだこうだとやり方を教えて、すこしづつ人数をふやしてゆけば会社もそこそこ伸びる。
飛行機にたとえれば、失速しないようにだけ気をつけるのがコツ。続けると距離をかせぐことはできる。いったん飛んだ飛行機を飛行させ続けるには、できるだけ変化がないように同じことを繰り返す持久性が問われるわけである。

だが、飛行の最初に必要な離陸、これがビジネスでいうと商品開発となる。ここには別の方法論が必要となる。水平飛行の亜流だと思ってこの開発をなめてかかると、「事業の立ち上げ」は立ち上がらずじまいで失速することになる。

飛行機ではシャフト(車輪軸)にブレーキをかけ止まった状態のままジェットをふかし、最短加速準備の状態をつくりだす。シャフトがおれる寸前までエンジンを回転させ、「内圧」を高めたところでブレーキをリリースし、一気に加速離陸する。

このプロセスは機体への負荷と、そしてパイロットの緊張が一番高まるといよわれる。商品をつくる、というのはこの離陸に似て、多くのコストとエネルギーの消費を集中し、無駄を許容しなければならない。そしてうまくいったときだけそのあとに弛緩のカタルシスが続くことになる・・。

このカタルシスについては成功談として多くの書籍や番組などで語られてきた。誰もが「産みの苦しみ」という言葉を知っているし、わかったつもりになってしまう。
だが、この産みの苦しみという「つわもの」は、一筋縄ではいかないものだ。

14年前、家内の出産に立ち会った。出産というのはまさに壮絶な光景である。
生み出されるものは、高くなるだけなった内圧を利用して破裂するように膜をつき破って出てくる。同時に多くの排出物をもが排泄される瞬間である。産物が大きいと、内圧も高く痛みも大きい。こらえきれずに早産したくなることもあるし、タイミングを間違えると致命的事故になる。
大量の出血と痛みを伴うが、痛みが消えはじめる瞬間ともいえる。この瞬間こそがカタルシスである。

ものづくりをしていて思うのであるが、この内圧をあげてゆくプロセスで下手に排出物を押さえ支出を節約しようとすると、リスクへや恐怖は減るが離陸を失敗することがある。実にハイリスクなプロセス、それが「ものづくり」の工程である。

「0」が「1」に変えられる劇的瞬間。内圧が破裂する瞬間である。
ここに必要なこと、それはそこに続く子育てのルーチン作業の忍耐力とはまったく異なるものだ。一緒独特の「適性」が必要なのかもしれない。コラボレーションは、この「内圧」への準備姿勢を確認しておかないと、できないのかもしれない。