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斎藤由多加のブログだよ

第12回 マーケティング

「自分の事業において、あなたは"マーケティング調査"をしていますか?」
そんな質問をされた時、僕は何と答えるだろう?

「いいえ、なにもしていません」
それが一番正直な答えだ。

「では、なぜあなたたちは"ヒットを狙っている"といえるのですか? その根拠は?」
そう質問されると、ほぼ困窮する。答えが見つからない。

「なぜ、何の根拠もないのに、何億円というリスクを冒してまで新作を開発しているのですか? 失敗したときに借金を返すあてがあるのですか?」

・・・これは、時々夢に出てくる裁判のシーンだ。

僕は、市場調査などというものをしない。なにもせずに、新作ゲームの企画をしてきている。ファミ通や業界雑誌などに一切目を通すこともほとんどなく、この大命題に対し丸腰で、つまりひたすら自分の中だけで答えを出そうとしてきた。うちの会社はよくも今までつぶれずに来たものだ、と思う。

僕の中では、"マーケティング調査"というのは、誰かを説得するための材料以外のものではない。 僕はもしかしたら必要以上に、そういったものから目を背けているのかもしれないけれどね。要するに、人と違っていたい、という欲求が不要に強いのだろう。こんな自分は経営者としてはどうなんだろう、と疑念を持つほどだ。

だが、マーケティング調査結果がいかに有力な情報であったとしても、幸か不幸か僕には説得すべき相手がいない。自営業者の強みも弱みも、その一言に尽きる。叱ってくれる人がいない代わりに、承認する人もいない。失敗したらただ倒産するだけである。つまりそこには説得という概念はまったく不要なのである。おのずと、おもしろい、と自分で思えるものだけを信じるようになりそれ以外の材料にはないと思っている。こうだから頑固者が多くなるのである、この手のポジションの人には・・。

しかし、さらにそこを除いたとして僕はどう考えているか、を正直に告白するとそれでも、"マーケティングをした"からといって魅力的なゲームの企画は発想できないと思っている。いや、ゲームに限らず、魅力的な商品というのが果たして考え付けるのだろうか? と、かなり斜に見ている。じつのところ、マーケティングというのは、客を馬鹿にしたような考えとしてみているふしが僕にはあるのだ。「大衆ってのは、こうすれば、いつも喜ぶんだ! これが常套パターンだよ。」なんて話を聞けば聞くほどね。

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この週末、ずっと「ビートルズ」のベスト盤をかけて車を運転してた。
後期のベスト盤(ブルージャケ版)に、「へルター・スケルター」が入っていないことに30年たってはじめて気がついた。

「へルター・スケルター」という曲は、ビートルズ作品の中でもおそらく一番カッコいいナンバーのひとつである。好きなライブハウスで唯一プレイされるビートルズ・ナンバーだ。

「ベスト盤」の定義にはいろいろな意味があるが、一般的にはセールス成績の良かった曲を集めたもの、ということになる。

セールス成績がよい、を言い換えると、「たくさんの人がよいと思った」、ということである。つまり多数決である。「へルター・スケルター」はカルトな曲なので、「イエスタデイ」や「ヘイジュード」ほど支持されていないのだろうが、ライブステージでビートルズ・ナンバーを経験した人であればダントツにかなりカッコいいライブナンバーであることがわかる・・・・(シャロン・テート)殺人事件のきっかけになった、といういわくつきだから、あまり言い過ぎるとマニアック、と片付けられてしまうけれど・・。

話は戻るが、セールス成績を「よい」の定義にしてしまうと、多数決だから、英語圏の曲が日本語曲よりも必ずいい、という結果が出る。英語に共鳴する人口の方が圧倒的に多い、という事実が、セールス成績をバックアップする。

同様に、ゲームでは、プレステ2のタイトルのほうが同クラスのGameCubeのそれよりもぜったいにいい、という結果が生まれる。

そういったさまざまな要素が絡み合って、多数決は形成される。
じゃ、売れる要素を集めればいい作品になるのか?
Noだよ、やはり。

この週末のゲームショーで、僕らはひさびさの新作を発表する。
このゲームは「北京原人育成キット」というサブタイトルがついたものだ。
この手の話をすると、「北京原人を育てたいマーケットってどれくらいだ?」という話をしたがる人がかならず現れるものだ。そんなマーケットがあるはずがない。ぜんせんないから、目を付けたんじゃないか。

エンターテイメントに限らず新商品の企画というのはカタルシスを伴う仕事だ。つまり自己実現のカタルシス。なぜカタルシスがあるかというと、そこに、ほかに頼るものが何もないからだ。自分だけを信じるからカタルシスというのであって、アンケート結果にそう現れているのであれば、商品開発のプロセスに「人間」が介在する必要などなくなってしまう。そうなるとコンピューターが商品を開発できることになる。

              ☆    ☆    ☆

発想した人間と同じようなセンスをもちあわせた人がとれだけいるか、それによってセールス成績はある程度決まる。同類の人口が多い人もいれば、少ない人もいる。血液型ようなものだ。

僕の血液型はAB型、いわゆるマイノリティーだ。マーケットに例えると、サイズは全体の10%、A型のわずか1/4だ。だから共鳴してくれるパイは小さい。

パイの小さいAB型の僕がなるだけ多くの共感を得るためにすることは、メジャーのA型に近づくことではなく"ABらしさ"を思い切り炸裂させること、だと思う。それこそが最良の手立てだし、自己実現のカタルシスである。それが、「ヒットしてうれしい」の定義だ。

新製品をつくるということとは、つまり新分野をつくること、鶏口牛後、なのである。