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斎藤由多加のブログだよ

非常識なアプローチ

先ほどフライパンで、夜食のインスタントラーメンを作って食しました。

「インスタントラーメンをフライパンで作るとは下宿学生みたいですね」
そう思った人も多いことでしょう。

が、実はインスタントラーメンは、フライパンで作るのが一番なのです。それはなぜかといいますと、底面が広く胴が薄いので、湯が煮えるのが早いこと、そして、もうひとつ、麺ゆでに使用した煮え湯を、そのままどんぶりに適量づつ移動させることができるから。

茹でる=鍋、という知識に妨げられてこれは一見乱暴なやり方に聞こえるかもしれませんが、いちどやってしまうと鍋に戻ることができないくらい便利です。みなさんぜひ試してみましょう。

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子供時代の話ですが、同級生のS君のお父さんは「ご飯は牛乳をかけて喰うとうまい」とか「お茶に砂糖や牛乳をいれるとうまい」とも豪語し、僕ら子供に「きもちわりー」と嫌われてました。「ぜったいうまいはずない」と僕らは決め付けてました。

でも、よくよく考えると、「ドリア」とか「グラタン」という名で僕ら子供たちは「牛乳ご飯」を食べてたんですね。お茶ミルクだって「抹茶アイス」とか、「抹茶フラペチーノ」という名でいま普通に人気がある。和食素材と牛乳というのはとても相性が悪いという気がしますが、名前を変えればぜんぜんあり、ということです。僕らがいかに「~あるべきという知識」に邪魔されているか、というはなし。

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いま、金属を削りだしてシリンダーにして動かす、というソフトの実験をやっています。
いわゆる学研の科学と学習の付録、みたいなソフトですが、ひとつちがうのは、そのエンジンを搭載してレースをする、というのがバーチャリティーならではの特徴です。こんな都合がよいことは現実にはあり得ないわけで。

さてこのエンジンのトルク性能などを決定する算出式をここ数ヶ月ずいぶんと調べてきたのでその話をします。といっても工学の話ではありません。

皆さんはアクセルを踏み込むとどうしてエンジンが高回転になるか、知ってますか? ま、知っている人は知っていると思うので答えをいってしまうと、「空気穴」が広がってエンジンに空気がたくさん供給されるからなんです。ガソリン供給が多いとかそういう話ではない。一回あたりの回転はすべておなじ物質量でおこなわれる。あくまで回転がはやくなるだけのはなし。

では、空気の穴が大きくなるとどうしてエンジンは「高回転」になるのか?この質問に答えるのは容易ではない。「爆発力が大きくなるから?」・・いいえ、それはちがうんです。それでは説明がつかないのです。穴が大きくても小さくてもエンジンの排気量は一定なので、一回当たりに吸い込む空気量は一定なのです。ここをしっかりと描かないとエンジン創作シミュレーションはうまくなりたたない。

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うちの社内には、「自動車に詳しい」という人がたくさんいるんですが、高校物理に立ち返ってきちんと説明できる人はひとりもいなかった。僕自身も、アクセルを踏めば加速する、ということを当たり前のように思っていたことだけれど、ものすごく原始的なところからエンジンのしくみを再構築して理解する必要がありました。そこにすごく時間がかかりました。

シミュレーションソフト制作というのは企画者がまず基本を理解していないと企画がすすみません。そのために僕も自動車に関する本を読みあさったのですが、しかしこのような基本過ぎることは逆にどこにも書いてないのです。だから、ビストンエンジンを高校物理くらい単純なモデルに置き換えて最初から考えないとならない。このあたりの仕事は、もはや、現実のトレースではなく、むしろ着眼力、ないしは発想力の世界になってきます。

ちなみに自動車メーカーの人にもずいぶんと話しをききにいきました。が実際のメーカーというのはもっと複雑で高度な問題と格闘してきた業界ですから、話を聞いても専門書をめくっても実地的で複雑な情報しか出てこないんです。シミュレーションゲームに置き換えるには、現実的なものを捨て、ばっさりと簡略化し、ごく単純なモデルにします。だから、メーカーの人には、逆に「最近かんがえもしなかったけど、たしかにそういうことですよね」と、いたく感心されました。同じ理由で、自動車に詳しいスタッフが自慢げに話す自動車知識は時として邪魔になることさえある。重要なことは「一般常識にとらわれずどこまでばっさり捨てれるか?」という割り切りです。

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あらゆる特撮技術を駆使して作られたスターウォーズという映画を最初に企画しているとき、ジョージ・ルーカス監督のいちばんの英断、それは、この映画で「宇宙空間の無重力表現をばっさりとあきらめた」ということではないでしょうか。

あきらめた、という表現はへんに聞こえるかもしれません。しかしあれだけリアリティーに予算をかけた映画をつくる上で、この決断をするにはとても勇気がいったのではないかと思います。だって、「2001年宇宙の旅」と同系統の特撮スタッフを使って、しかもアポロがすでに月に到着した後の時代に、無重力表現はどうする?というのは頭をよぎらないわけがありませんから。

細かな演出はともかく、最初の大決断、というのが創作物にはかならずあって、それによって作品は大きく変わる。専門的な知識に引っ張られると、これができず、企画は泥沼にはいってゆくことがあります。無重力空間を舞台にしたスターウォーズの物語展開はどれだけキレが悪いかは想像がづきますでしょ?

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エンターテイメントというのは、日常ではあり得ない非現実的なことを、いかにもありそうな日常風景に混ぜて人を誘導する技巧です。だから創作者は「うそ」を平然と、大胆に、しかも人にはわからないようにつく必要がある。

シミュレーションゲームもしかり。知識とか常識に押されて馬鹿正直に必要とおもわれることを入れ込んでいたのでは、複雑になりすぎ、逆にゲーム世界がカオスになってしまう。だから、重要な骨だけを取り出し、あとはすててしまう。僕らはこれを簡略化のプロセスと呼んでいます。

この導入でつかなければならない大ウソが、専門的な知識とか一般常識で鈍ってはならない。だから、クリエーターにはつまらない知識に耳を傾けすぎず、牛乳をご飯にかけて、当たり前のように人に食べさせてしまう大胆な非常識さ、が必要だと思うのです。