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斎藤由多加のブログだよ

なんだかとても気持ちのいいできごと

ただの日記

路上でタクシー待ちをしていたら、突然、川上に別の人が現れて、タクシーを横取りされてしまった、という経験はありますか? 無配慮なそういう他人に遭遇した日というのは一日気分が悪いものです。

さてその日、なかなかタクシーがこないのでいらいらしていた僕の前に突然現れたのが写真の人物。いでたちから推するに、どこかよその土地からきた人にも思われます。

やや川下にいる僕がずっとタクシー待ちしていることを知ってか知らずか、どんどんと中央にせり出てきて僕の陣地を侵蝕してくるわけ。そうなってくると、風貌からもっている土産袋にいたるまで、なにからなにまでがあつかましく見えてくる。

「こんな自己中なやつにまんまと取られたらたまったもんじゃないぜ」と手元のiPhoneで取ったのがこの怒りの一枚というわけです。

Img_0052

さてそうこうするうちに、あれだけ待って来なかったタクシーが一台、そこにまんまとかってきた。そしてちょうどカレと僕の間に停車したのです。


そういう段になって、我れ先にと強引に乗り込めないのが東京モンの見栄っぱりなところでして、それでいてあとでぐちょぐちょと愚痴をいうのも東京もんならではの女々しいところ。強引に乗ろうか、格好つけてどうぞといわんばかりに譲るか、軽いパニックのように判断しかねているうちに、タクシーは完全停止しドアが開いた。そしてその次の瞬間カレと僕の目が合ったのであります。

火花が散るか、というくらいに思っていた僕を見て、ほんの一刹那をいれこのカレが口にした意外な一言、それは

「あ、どうぞ」という四文字の言葉でした。

カレのその四文字の言葉は、おそらく北関東弁なまりだったと思うのですが、すこし照れくさそうに、滑舌もあまり良くなく、しかし、アドレナリンに溢れた僕にはまるで鈴の音のように、あるいは一抹の清涼剤のように耳に転がり込んできたわけです。

うろたえて「あ、ありがとうございます」そう答えるのが精一杯でしたね、僕は。

なんだかとても恥ずかしい気持ちになりながら、そそくさとタクシーの中に乗り込んだのでありました。

****

とまあ、それだけの話しなんですけれど、わずかほん一分くらいの出来事でした。

先入観というのは恐いものです。もし僕が場所移動などして、そのままになっていたら、この人は僕の記憶の中では永遠に「あつかましさの権化」となり、この写真は酒の席などで知人たちと悪口の餌食になっていたでしょう。(そのネタにしてやろうという気持ちで撮ったのですから)

しかしこの一枚、なぜかいまとなっては自戒の一枚の証拠写真となりました。こんな写真を撮っていること自体あつかましいわけでして、さらにその写真をブログに載せるなどというのは恥の極みをさらしているようなものです。

本当に、人間というのはわからないものです。

僕は、この日の午後、とてもすがすがしい気持ちでした。

そして、いまこのブログを書いている今も、懺悔しているような気持ちとでもいいましょうか、この人の四文字のおかげですこしさわやかな気持ちになるのです。