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斎藤由多加のブログだよ

アウトラインプロセッサーその2

アウトラインプロセッサーとはなにか?と一言で聞かれたら、「自分の(思考の)鏡」と答えるかな。

イデアプロセッサーとも呼ばれるこのソフトは、「アイデアを生み出してくれるソフト」であるわけがない。だってそれは人間の脳しかできない行為だから。

過去のさまざまな事例を紹介する「暗号解読」という名著がある。プログラマー、あるいはコンピューターを利用する企画者、は是非ご一読をお勧めするのであるが、この本のテーマはは読み方を変えると、「コンピューターは暗号解読ができない」でもある。

これはどういうことか? 簡単に説明すると、暗号化されたアルファベットの組み換えをしても、その中の一つが「正解だ」と判断できるのは人間でしかないという話。あれこれと符号の組換え作業は機械化できても、膨大なそれら候補の中から正解を判別する天文学的時間を加味すると、結局解読したとはいえない、ということである。サルがタイプライターをむちゃくちゃに打った中から、シェイクスピアを確率的に期待できるか、という命題に似ている。
そもそも暗号がつかわれるのはたいてい戦争中であるから、限られた時間内に解読できないと、とうに敗北が決定している、というパターンである。

暗号解読の歴史とは、だからつまり「解読方法を直感する人間の特殊な能力」の歴史を綴ったものともいえる、そういうテーマの本である。

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シミュレーションという言葉が好きで、僕はこれまでシミュレーションゲームばかりを手がけてきた。そんな経緯の中で、できることなら自分自身の脳をシミュレーションできたら、とも考えることがある。「所詮そんなことは無理」と思うかもしれないが、ひそかに一部なら可能だろうと僕は今でも思っている。ただ条件がひとつある。自分自身が記述できる言語を用意しなければならない。

さて、アウトラインプロセッサーとは、自分を整理して「そこに新しいなにか」を発見をするソフト、である。むろん発見の対象は「自分の思考の中にある何か」である。だから「自分の(思考の)鏡」だと表現してみたわけで。

だから本来あつかうDataは「日本語」のような文字である必然はない。ちなみに昨今のデスクトップミュージックの普及は、「音符のアイデアプロセッサー」の役割をシーケンサーが果たしていると思っている。

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僕の会社の若手社員に依頼する仕事でもっともペースの遅い仕事はなにか?と聞かれたら僕は迷わず「企画の分担」と答えるだろう。

企画の骨格ができたとしよう。その次には肉付けやら行間をうめる工程をスタッフで分担することになる。ところが、そのとたん、スピードはぐんと落ちる。一冊のエッセイを一人で書けば2週間でできるものを5人で分担すると、一冊仕上げるのに半年かかる、という状況。単純計算では60倍の遅さとなる。

その原因はなにか? それぞれの企画におけるコミュニケーションの記述言語の不在である。たとえばシーマンのように日本語をAI化する作業で身にしみたことがある。どこまでが「題材としての日本語」でどこまでが「スタッフの日本語」か?その区別がつかないのである。この、一件どうでもいいようなことが、会議の効率を著しく低下させ、精神を疲労させる。 もうすこし分かりやすく言うならば、「日本語では日本語の構造体をうまく記述できない」ということだ。つまり、扱う題材とその記述言語は、別の構造体でないとならない、という発見を、膨大な時間とコストを払って僕らはしたように思う。

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さてアウトラインプロセッサーの話に戻ろう。
自分を投影するための言語、があれば、だからどんどんと思考は機械(コンピューター)によって加速することが可能だと思う。問題は、自分の思考を記述する言語はなにか?である。

言語とは組み換え可能な記号のことである。「絵」や「音」(音符ではなく)は言語ではない。言語化されているものはどんなものであれコンピューターは処理が可能である。だが言語ではない対象、つまりプロセシングできないものの場合、たとえばアウトラインプロセサーに絵や音がどれだけ貼り付けられたとしても、これらってあくまで「おまけ」「飾り」、にすぎないのです。

では、アイデアをプロセシングするために、世の中にはどんな言語があるのか?となるわけだだけれど、たいして、ない。すでに存在するまともな言語は、数式と音符、あとは電車のダイアグラムの類、くらいである。曖昧なものを含めるならばここに「言葉」が入ってくる。(ちなみにプログラム言語はここにいれてない。プログラム言語自身を、プログラム言語で記述シミュレートしようとしても上記の理由で破綻するから。)

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そうやって消去法で考えると、世の中に存在するアウトラインプロセサーはすべて「文字」ベースのものばかりであるのも無理はないんだろうなぁ。新たな知らない言語を学んでまで思考する需要がこの世にはまだないし、その言語を開発する企業などいないから。

MindMangerを選択した理由はなにか?と聞かれたら、「手書き入力が可能だった」からです。僕は個人的にピュアタブレットPCを使っていて(キーボードのついてないうすぺらなPC/もう生産中止なのでこのマシンは貴重である)、出先でペンで書いたものをプロジェクターに投影してスタッフに説明する。だから会議室には液晶プロジェクターが常備されていて、必要に応じてそれらは(WIFIで)プリントアウトされるしくみになっている。

そのソフトとしてアウトラインプロセサーを探していたので、MMということになった。それ以外のこのソフトの機能が特段優れているとは思わないのだけれど。

文字ことばというのは、先述したとおり言語としては曖昧であるから、プログラムが処理できるものではない。「絵」や「音」と同様、かざりである。ましてや手書きの文字になってくると来ると、「絵」そのものである。

だが、タブレットPCを使う利点、言い換えると手書き文字の利点は何かというと、自前のコンピューターである「右脳」が活発に稼動すること、である。

キーボードに向かって、背骨を曲げた姿勢で発想する内容に限界があるから、いたしかたなく手書き作戦を多様しているというわけである。ちなみに万年筆に凝っているのも同じ理由で、開発会社としては異例だろうが、うちの会社は新入社員は「万年筆」がプレゼントされる。

アウトラインプロセサーの進化は、これからのコンピューターソフトウェアの進化を決定づけるくらい重要だと思っていて、それこそが人間とコンピュータのかかわりの本質を担っていると思うのである。MacProがどれだけ薄いといっても触手は動かないが、タブレットマックが出た瞬間、僕は徹夜で並ぶに違いない。そこに入っている「ソフトウェア」に期待するという意味で。

つづく