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斎藤由多加のブログだよ

僕がカメラにはまる理由 その1

はじめてデジカメに触れたのがアップルのQuickTake。数えてみたらまだわずが10年前のことである。自分の記憶では20年近い印象があるけれど・・

デジカメで美しい写真を撮ろうなんて発想は、コンビニに高級フレンチの食材を買いに行くのと同じ、あり得ない発想だった。当時デジカメの役割はどちらかというと、メモである。美しくないけど、書類に貼って、で送れる、そういう業務グッズ的なもの。

ほぼ日の連載などで使っている標識や看板の写真も、その発想だから撮れた。露出やピントにいちいち凝っていたら多くの瞬間を逃していたにちがいない。移動中に10秒以上立ち止まってはいられない、それが日常でのカメラの優先順位というものだ。

だからそれまでのカメラの選択基準は次の4つだった。

1.起動が早い
2. 片手で取れる
3.ズーム(内臓)装備
4.パンツの後ろポケットにはいる形状

この機能さえあれば、よかった。フォーカスやフライデーじゃないが、その場でとっさに発見を記録できさえすればよかった。光学式ズームがデジカメについたのは後半になってからの話だがこれは看板を撮るには重宝した。だがいちばん重要なことはいつでもカメラがポケットに入っていることだ。手ぶらで歩く僕にとっては後ろポケットしかカメラの居場所はなかったから。名刺サイズであることがなににもましての条件だった。

「ハンバーガーを待つ3分間の値段」はそうやってできた本だ。あの本の写真のほとんどは愛用していたサイバーショットが活躍した。サイバーショットは、レンズがせりでてこないので使いやすかった。

街で見かけたちょっとした発見をカメラに収める・・これは僕の日課となっていた。もちろんそういった連載などに使う目的もあったけど、一番の目的は本業・・・つまりゲームの題材を発見するためのメモ的なものだった。これについては後述する。

ところが、ここ一年これまでとは比べ物にならないほどの大金をカメラにつぎ込んでいる。R-D1とM8というレンジファインダーのカメラがそれである。しかもそれらのカメラはまったく上の条件を満たしていない。でかいし、かなり重い。

明日代金着払いで届くレンズは、僕が買う初のライカレンズである。エルマリート24mmという単焦点のレンズ。たかだかレンズで値段は24万円。定価だと34万だ・・。
24万円といえば、普通のデジカメ本体の値段の数倍である。いやいや、R-D1の本体の値段である・・・。R-D1を買うとき「デジカメで24万円か?」と躊躇した思いはどこへいったのか?

いつからこんなにカメラの趣味が変わってしまったのか・・・。

おもいあたる鮮烈な記憶がひとつある。

十番の寿司屋のおかみさんが趣味でやっている六本木の外人バー。
そこで、友人とできたての著書(上述した本である)をにんまりと眺めながら飲んでいた。
その席についた金髪のホステスさんが、その本を見せろという。
日本語がまったく読めない彼女は、偉そうにパラパラとページをめくったあと、本文中のある写真を指差して、カタコトの日本語でこういった。
「へた」

その写真は、ある看板をとったものだが、フラッシュの光で反射していた。

みていた友人が爆笑した。

「この本はね、写真のきれいさは関係ないの」
そう説明したが、
「でも、へた」
とつっ返された。

この瞬間にまちがえなく僕は「この本の印税で次はマニュアルカメラを買うぞ」と強く思った。

つづく