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斎藤由多加のブログだよ

<第0回>その1 「ワンマン」

(以下の内容は、当時の企画意図の再現性を意図し、
ほぼ日刊イトイ新聞2004年5月13日号に初出した
原稿をそのまま転載したものです。)

ここのところずっと取り組んできた
新作ゲームの話をします。
毎年、E3(Electronics Entertainment EXPO)という
大展示会が米国で開催されます。
今年は任天堂が新しいゲーム機を発表するので
話題となっていますが、
その任天堂ブースで新作ゲームの
参考展示をすることになりました。

今回のゲームのコンセプトは
零細企業は大手にどう立ち向かえるか?」
みたいなことです。
資金力や人数や規模では勝ち目はない。
チャンスがあるとすれば、
他の会社が持っていない独創的な商品がひとつ。
あとはそれをとりまく社員の情熱、スピード、
そしてリーダーシップ。
今回のゲームは、こういった切り口で
巨大な敵に挑む、そんなゲームです。

●●ワンマン●●

ワンマン企業、という言葉があります。
すこし前の金融会社のスキャンダル報道に
「この書き方じゃ、
 まるでワンマンがいけないみたいじゃないか」
と憤慨している経営者がいました。
この人は裏原宿で美容室を経営している人です。
自らハサミを握り、
十数名の若い美容師を取りまとめて
日々がんばっています。
この一言が、実はとても新鮮でした。
というのも、(私の事務所もワンマンですが)
企業がワンマン経営であることは
芳しくないことと思っていたからです。
しかしこの一言を聞いて考えが少し変わりました。

たしかに
「ワンマンだったから続けて来れたのだろうな」
と思いあたることがいくつもあります。

「ワンマン」
いろいろな意味を持つ不思議な言葉です。
ヒットラーのような独裁者と
イメージがだぶったりもします。

私の周囲の「おもしろい会社」は
どれも経営者の個性が強く、ワンマンです。
責任者のはっきりしない大企業と付き合うよりも
いいバイブレーションで仕事ができるので、
私は好きです。
崇拝する「アップルコンピュータ」しかり。
ですが、ワンマンだからといって
経営者一人ですべてが全うできるわけではない。
彼らが提供するのはバイブレーションというか
ビジョンと言うか、
そういう精神的なものだったりします。
けっして物質的ではない何かが、
社員を揺り動かしているのです。

マッキントッシュの開発チームは
「海賊チーム」と自称し、
ハンバーガーとコークで長期の徹夜を
乗り切ったといいます。
マッキントッシュはアメリカでは珍しく
「自己犠牲」の集積の上に成立した大仕事でした。
途中何度も社員の待遇への不服に対しジョブスは
「旅への参加が報酬だ(Journey is reward)」
といったそうです。
本人たちはかなり大変だったと思いますが、
周囲でその恩恵を享受している者からは
偉業となります。
株式公開するなどして
それがシステムに置き換わってくると、
会社魅力も減り、製品も個性がなくなり、
なぜか業績は(つまらない意味で)安定してきます。

●●一将功なりて万骨枯る●●

さてさて、今回出展するゲームは、
究極の「ワンマン」になるゲームです。
舞台は戦国時代。
プレイヤーは一人の武将となって、城を攻めます。
自兵の数はごくわずかで、唯一の武器は大きな玉。
これをピンボールのように跳ね飛ばして
城壁を壊してゆきます。
道なき道を進めてゆくには、
大きな玉の通り道が必要になります。
プレイヤーはおのずと
(実際の戦国時代がそうであったように)、
兵を駆使して道を造ってゆくことになります。
彼らは自らが橋や柱や道になって玉筋となり、
同時に疲弊してゆきます。
まさに「一将功成りて万骨枯る」の構造です。

途中で敵兵を味方に取り込むなんてこともできますが、
いまの企業のような
ストックオプションなんてものがない時代ですから、
兵たちを進ませるエネルギーは、
兵たちからの武将に対する「信頼度」となります。
兵たちは武将の采配を見ていて、
よろしくない大将だとこの信頼度は下がる。
すると兵のモチベーションも下がり、
やがては指示どおりには動いてくれなくなります。
ワンマンがワンマンでいられるための条件を
この「信頼度」としました。

こんなテーマを選んだのは、
「戦国の兵たちは自分の命を
 どうとらえていたのだろうか?」
という子供の頃からの疑問がもとになっています。
というのも戦国の世に、
兵たちは命令されていやいや戦っていただけとは
思えないからです。
多くの歴史は信長や秀吉のような武将を中心に
綴られてきていますから、
こんな匿名的な兵たちの気持ちを
推し量ることは容易ではありません。
「だったら、いっそワンマン武将になって、
 身内の兵を犠牲にしながら
 進んでゆくゲームをつくってみよう。」
それが製作の動機です。

一年前から開発がはじまったこのゲーム、
完成予定はまだまだ先です。
(発売される保証もまだありませんし。)
ゲームというのは本来秘密主義で
製作が進められるものですが、
今回、日本ではなく米国のショーにて出展
ということにあいなりまして、
(ずいぶんと間があいてしまったお詫びも兼ねて)
皆様には製作意図とともに紹介させていただく次第です。

かくいう私も、この原稿を「ほぼ日」に送信したら
そのまま渡米です。
ということで、もしショーの記事などを
どこかで見かけた際には、
是非この話を思い出してくだされは幸いです。